シリーズ「毎日新しく世界を知るものとして」は、フィードバックを全建築業界・美術業界に返したい。もし本気でアクションしていくのであれば、有志で勉強会を続けていくだけでなく、より多くの専門的な職能を持つ協力者を得ていく必要があると感じ、まずは議事録を広く公開することにした。
勉強会は①参加者の自己紹介→②主催者の勉強会意図説明→③大村さんによる『アンチ・ジオポリテイクス』読書会→休憩→④話し合い、という内容で行われた。①参加者の自己紹介は個人の情報を含むため非公開とするが、参加者の内訳は全18人中建築設計10人/建築系学生2人/アーティスト5人/その他4人であり、建築設計者ではない参加者がいたことも話し合いにオープンさを作っていた。参加者には勉強会への参加理由を自己紹介で述べてほしいと事前に伝えてあり、パレスチナの問題について「行動するきっかけがほしい」や「学びたい」、また「話し合う場がほしかった」という参加理由が多かった他、今回選書された本に興味があったという参加者もいた。(アクションの一環として展示を作っているが)「どうやって展示を作ったらより伝わるのかヒントがほしい」という参加理由のアーティストもおり、今回の勉強会ではそのような話にあまり触れられなかったので、今後個別でケアしていきたい。
②主催者の勉強会意図説明では佐藤から以下のようなことを述べた。
「勉強よりもまず行動してほしいという声もあるが、ここまで動けていないと、なぜ動けていないのかも考えて解きほぐす必要があると考えた。私自身としてはこの勉強会をプロテストの準備運動として捉えている。パレスチナの問題に限らず、常に抑圧に対抗していくとすると、心と身体の負担を鑑みて、準備運動も大事であると考えた。大村さんが選書した『アンチ・ジオポリティクス』はすごく面白いが、難しいことに加えて文章量が多いので、私自身全部は読めておらず、自分がファシリテーターをして良いか自信がない。しかしその自信のなさがそのままパレスチナに対する沈黙に繋がっていると思うので、参加者の中にも今日ここにいることに自信がない方もいると思うが、萎縮せずにできれば発言して参加してほしい。」
この際にポストイットを参加者に配り、読書会後に話したいことのメモをお願いした。
③大村さんによる読書会の要約は以下の通り。
「イスラエル/パレスチナ問題は植民地戦争の系譜に位置づけられると同時に、外部勢力の多大な支援を受けてきたシオニズムという非常に特殊な事業の結果でもあり、歴史的背景が非常に複雑。なので今回の読書会では前提知識の共有として、まずはラシード・ハーリディー『パレスチナ戦争 入植者植民地主義と抵抗の百年史』鈴木啓之・山本健介・金城美幸訳(法政大学出版局、2023年)を下敷きに、歴史的背景を駆け足で振り返ることにした。本書でハーリディーは、イスラエル/パレスチナ問題をめぐる6つの転換点(パレスチナ人への「宣戦布告」)を、1917年〜1939年(バルフォア宣言とイギリスによる委任統治)、1947年〜1948年(大災厄=ナクバ)、1967年(第三次中東戦争)、1982年(レバノン侵攻)、1987年〜1995年(第一次インティファーダ&ハマース組織〜オスロ合意)、2000年〜2014年(パレスチナの分裂)に見ている。ハーリディーはこれら6つの転換点において、パレスチナにおけるイスラエルの入植者植民地主義的な性質と、それを遂行する上で必要不可欠であった第三勢力の存在・役割が浮き彫りになっていることを指摘している。今回の勉強会では、これらの転換点と対応するかたちで、イスラエルによる植民地運動が「囲い込み」(土地収奪の正当化)→「壁」(物理的な境界の建設)→「ロジスティクス」(物資供給のコントロール)というかたちで推移・進展してきたことを確認したうえで、『アンチ・ジオポリテイクス』第5章を読み込むことにした。

「囲い込み」(土地収奪の正当化)と「壁」(物理的な境界の建設)に関しては、ゲーリー・フィールズ『囲い込み──歴史の鏡に映るパレスチナの風景』を導きの手としつつ、シオニズム運動においてはイギリス由来の土地収奪の正当化のロジック──土地は耕作=労働した人間の所有物である──が介在しているということ、そして土地の所有権の奪取において基本的な道具となるのは「地図・法・建築」の三点であることを確認した。
最後に「ロジスティクス」(物資供給のコントロール)に関して、『アンチ・ジオポリテイクス』第5章を参照した。「摩擦のない流通空間」を生産する技術であるはずのロジスティクスは、イスラエルによって「敵の土地に計画的かつ組織的に摩擦だらけの空間を生産し、他に選択肢がない状況で敵の住民をいっさいのサプライチェーンから切り離す」(『アンチ・ジオポリティクス』285頁)ために使用されている。イスラエルのこうした「占領のロジスティクス」に抵抗するように、ガザの地下トンネル建設(オルタナティブなロジスティクスの構築)や世界各地の港湾労働者による荷揚げ拒否といった「対抗ロジスティクス」が、パレスチナの闘争として全面化している。イスラエルは米国と並んでグローバルなサプライチェーンの安全保障を先導する存在だが、それゆえに、BDS運動をはじめとした世界各地のロジスティクスへの介入は重要な意味・効果をもっている。」
休憩(ポストイットの回収)
④話し合いは、建築家としてどのようなプロテストがありえるかという問いかけに対して、「早い/遅い」二つのアクションのあり方についての議論が進んだ。
「遅い」アクションは特に『アンチ・ジオポリティクス』の議論を引き継いだもので、「現代ではサプライチェーンによって、関係ないと思われるような非常に離れた土地同士が結びついており(大村)」まさにイスラエルがそのようなサプライチェーンで経済的国際的に優位な立場を築いてきたため、BDSが非常に有効であるということが確認された。建築家としては、特に建材のロジスティクスを可視化することで、その時々でボイコットするべき対象を把握できる状態を作り、有事の際に行動できるように準備することが、離れた土地で行えるひとつの対抗ロジスティクスとなるだろう。環境的にも建築資材の流通が注視されているなかで、経済的な側面だけではなく、社会的な概念として流通が捉えられていけば今回の話と繋がる、という意見もあった。
一方で植民地化の手段として「地図・法・建築」が三大要素であるという読書会での学びを踏まえると、今まさに目の前で起こっていることに対して即効性を持って対抗していく責任も建築家にはある。「早い」アクションとしては、デモやスタンディング・関連展示などに於ける仮設的な構造物にアイデアを出す(安全性や便利さだけではなく、どうすれば効果的に伝えられるかを含め)ことが要請された。人によってはデモに参加することが怖い、あるいは心理的な負担に耐えられないという声や、建築家として仕事をしながら続けられるプロテストを考えたいという声もあった。そのような「早い」と「遅い」の間のような対抗の仕方として、「制限的プロテスト」の提案があった。例えば通勤の間だけSNSで関連するポストを拡散したり、「ランチトーク」のように政治的な話をしていく(同時に普段は他者に丁寧に接する)ことで「面倒くさいからそういう話題を避けよう」という強い同調圧力に弱く対抗していくことが挙げられ、多くの共感の声があった。この提案には、戦略的に無暴力・無武装を徹底し、多くの階層の人々の参加があった第一次インティファーダが国際的な支持を得て、アラブの春などへ繋がっていったという前段での学びとの相似性が認められる。また建築家としては単に物質的な構造を考えるだけでなく、あらゆる物事の構造に目を向け、自分の今取り組んでいるプロジェクトも常にそのような視点で見つめようという問い掛けもあった。
学生の参加者が居たため、学校でどのような活動ができるかという話題も出た。学校で行われたことの例としては「ゼミの発表でパレスチナのことを関連付けて発表する」「レクチャーを開催する(学校から謝礼が出るようにきちんと企画することが重要)」「無人のテントを作って関連の本を置いておく」などが挙がった。彼らに限らず、今までパレスチナに関する問題意識がなかなか他者に共有できなかったストレスを抱えている人が多く、発言をするために安全な場所を作っていくことが大きな関心事となっていることが伺えた。本勉強会としても、続けていく中で継続的に参加する人物がイデオロギー的にならないか/その中で議論を深めていけるか、ということが大きな課題となる。安全な場の作り方としてはグラウンドルールの作成が挙げられ、「抵抗する美術学生のネットワーク」のグラウンドルールが参照された。
パレスチナのことを考えるなら沖縄など他の問題についても考えていく必要があるという意見があった。本勉強会シリーズでもまずはパレスチナに対してできる取り組みについて実践・検討を進めつつ、今後他のテーマについても取り扱っていきたい。「本勉強会シリーズのゴールは?」という質問があったが、自分が常に何かを見落としているだろうということが本勉強会の前提になっており、明確なゴールは設けずに建築家として何をするべきか、常に考えて行く場としたい。「(自分の知識が)有限と自覚しているからこそ、ある程度知っている分野を脚掛かりにして行動できる。有限性に思い切ってジャンプするために、有限の外の知らないことがある(と捉えたい)。」という参加者の発言が、本勉強会シリーズの意図を代弁していた。さらに発言者は続けて「行動する人を揶揄する人は、行動する人に共感しつつも、自身が行動できていないので揶揄してしまう。そういう人が行動にブレーキを掛けてしまう」と述べていた。
本勉強会を終えた後、参加者の中で最もプロテストの活動をしてきた人が「(普段の建築家の雄弁さを踏まえると)想像以上にナイーブな空気だった」という厳しい感想を述べていた。最後に今回の勉強会のネガティブな側面も見つめておきたい。第一回は広く一般に勉強会を開く意図で、参加希望を断らなかった結果、話し合うには多過ぎる人数となり、各参加者の参加度合いと議論の深まりを妨げた。多様な参加理由を許容するため、それぞれの参加者が「場違いである」と思わないようにケアすることを最優先した結果、「自分のできる範囲のことをすれば良い」という考えで安心感を手に入れた空気が全体にあった。それ自体は主催者が望んでいたことではあるが、今回の勉強会が一般に開かれ、実際には第ゼロ回的な内容であったことを踏まえると、参加者のそれぞれが次の勉強会を待つのではなく、各自でできる範囲で実際に行動していく、それぞれが行動の輪を広げていく、ことこそが重要であったと思われる。第二回からの勉強会の在り方についてはそれらのことを踏まえて考えたい。「プロテストの中心にいる人にはキャリアを中断している人も多い」という、ある参加者の指摘は重い。仕事を続けながら専門性を活かしてプロテストしていくという本勉強会シリーズの姿勢を見つめ直すと、本勉強会シリーズに参加すること、リアクションすることが単に正義へのポーズのためではなく、正義への責任を果たす努力を生んでいくためのものであるという前提を忘れずにいたい。人の正義感と欲望が複雑に見え隠れする中で、「移動」と「運動」を意図的に混同していく『アンチ・ジオポリティクス』の考え方には非常に希望を感じた。抑圧されて移動を強いられる人は単にかわいそうな人であるだけでない。「移動する人」「運動する人」だけが持ち得る政治性を見つめていきたい。
(議事録作成:佐藤熊弥)